英語が本当に苦手な人の英語学習法

製作: 小川 邦久

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7.カナダ語学留学


 カナダに語学留学に行くことになったのですが、もともと「カナダに行きたかった」という訳ではありませんでした。私の中では「英語と言えばアメリカ」というのがあって、当初語学留学の手配会社に「アメリカに語学留学したい」という依頼を出しました。しかし、担当の人に言われたのが「無職の人はアメリカの留学ビザがまず下りません。カナダだったら大丈夫だと思いますが」ということでした。これがカナダになった理由です。



 学校はカナダ西部のバンクーバー中心部にありました。期間は三ヶ月半、ホームステイも手配しました。学校初日のクラス分けのテストで、「上級クラス」に振り分けられました。この頃には自分の英語力にもそれなりの自信が付いてきつつあったので、この結果に特に驚くようなことはありませんでした。


 しかし、バンクーバーでの学校生活は、正直あまりいい思い出ではありません。クラスは約20名、そのうち1人がドイツ人で、あとは日本人と韓国人が半数ずつ。クラス内では「日本人同士でも英語で話さないといけない」というルールになっていました。日本人同士で英語を話すのは、日本の英会話教室でも「英語学習の上であまり効果がない」と感じていた私は、複数の国籍の人とグループで会話する場合は別にして、できるだけドイツ人や韓国人と話をするようにしていました。しかし、韓国語は文法が似ていることもあってか、英語を話す上でも日本人と同じような間違いをします。あと、イントネーションの癖も何となく似ています。悪いことに日本人同士の英語でも韓国人との英語でも、「日本人や韓国人に理解されやすい、実は誤った文法や発音やイントネーション」の方が、「ネイティブに理解される正しい文法や発音やイントネーション」よりも通じてしまう傾向があることに気づいてしまい、ますますやる気を失ってしまいました。もちろん日本人や韓国人でも英語のレベルの高い人が一人でもいれば話が変わってくるのかもしれませんが、語学学校に来るような人のレベルは残念ながらたかが知れています。


 それに加えて、クラスの雰囲気が良くありません。例えばクラスで誰かが発言をして、何か間違ったことを言ってしまうと、韓国人のある生徒から「何を言っているんだ」とか「だからどうした?」というような馬鹿にした発言が出てくるのです。私はこの生徒の攻撃を一度受けてしまってから、クラスの場で自分から発言をする気が無くなってしまいました。


 授業内容についても新聞や雑誌の記事の読解や英文法など、日本で自分一人でも学習できるものばかり。たまにディスカッションの授業がありましたが、「またあの韓国人に馬鹿にされるのが嫌だ」という思いで、直接質問を受けた時以外に、自分から発言することは一切ありませんでした。




 ホームステイファミリーとの生活も楽しいものではありませんでした。家族構成はシングルマザーと3歳の娘の二人家族。しかし、ホストマザーは朝早くから働いていて、夜も娘と一緒に出かけていることが多く、せっかくのホームステイなのに家で話をする機会がほとんどありません。食事の時間も朝は一人でシリアルを食べて、夜も一人で電子レンジで簡単に済ませることが多かったです。


 ホームステイファミリーには「当たり」、「外れ」があって、特に「単なるビジネス」としかとらえてないような、留学生とのコミュニケーションについてほとんど考えていない家族に当たってしまうと、英語の学習の上でも全くと言っていい程プラスになりません。海外での生活を体験する、ということも十分に楽しめません。このような場合には「手配会社に連絡すれば、ステイ先を変えてもらうことも可能」ということを聞いたこともあったのですが、その時の私は「ホストファミリーに悪いから…」とためらって、結局ステイ先を変えてもらうようなことはありませんでした。


 そのうちにクラスに出席するのも面倒になってきて、自分のためにならなそうな授業は出席せず、下の階のフードコートで一人で本を読むようなことも増えてきました。ある日、それを見かねた同じクラスの2歳年上の日本人男性が、一人で本を読んでいる私に休み時間中声をかけてきて、私が授業をサボっていることについてちょっとした議論になりました。そこで言われたのが「ちゃんと授業に出席しないとダメ。やる気がないのは人生の明確な目標を持っていないからだ」ということでした。その人はカナダで英語を勉強しつつ、将来はカナダでも他の国でも、テレビの番組製作をやってみたいという、確かに明確な目標を持っていました。しかし、厳しい言い方かもしれませんが、私にはその人の目標自体が達成できる類のものに思えず、また私に「明確な目標がない」と批判的な態度をぶつけてきたことに対しても大変不愉快に思いました。「やる気」がないのは、単純に授業が退屈で、なおかつ「将来にわたっても自分のためになる内容でもない」と判断したからであって、人生の目標があるかどうかは全く関係ありません。私はこのように人生論を振りまいて、他人の生き方まで否定するような人は、今でも非常に苦手です。明確な目標があろうがなかろうが、自分には自分のやり方があるのです。


 私はますますこの生活が嫌になり、滞在期間の後半には逃げるようにして何度か旅に出ました。最初はフェリーでビクトリアとシアトルを巡る旅。その次はVIA鉄道(カナダ大陸横断鉄道)でロッキー山脈を越える旅。それからウィスラーへスキーにも出かけました。いずれも移動中や宿泊先で、色々な国の旅行者や現地の人とコミュニケーションを楽しみました。人と人とのコミュニケーションのように、自分ひとりでは決して学習できない経験を欲していたので、この旅は自分にとって非常に有益なものとなりました。


 色々と不愉快なことの多かった語学学校とホームステイがようやく終了し、最後は帰国便のストップオーバーで、サンフランシスコ観光を楽しみました。もう、旅行の英会話についてはほとんど苦労しなくなっていました。