英語が本当に苦手な人の英語学習法

製作: 小川 邦久

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4.人生初渡航でロサンゼルス一人旅、英語力のなさを痛感


 大学四年の最後の夏休みを控えて、「今度の夏休みの間に英語を徹底的に勉強して、ペラペラに話せるようになろう」と決めました。もちろん英語を1~2カ月勉強した位でペラペラになれるわけがないことは今となっては当たり前の事なのですが、当時は「受験で英語を勉強した分の蓄積があるので、スピーキングとリスニングさえちゃんとやればある程度は話せるだろう」と自分の能力をかなり過信していました。


 さらに、「英語を勉強したからには実践の場がなければいけない」と思い、「英語と言えばアメリカ。英語の勉強が一段落つくタイミングでアメリカ本土に行こう」と決めました。アメリカ本土ならどこでもいいと思っていたので、大学のそばにある旅行会社のチラシを見て、一番料金の安いロサンゼルスに行くことにしました。飛行機は大韓航空で、往復料金6万8千円。後年、旅行会社によっては、ロサンゼルス往復2万円台など破格の料金が出ることがありましたが、当時は格安航空券が市場に出て間もない頃で、往復料金6万8千円でアメリカ本土に行けるというだけでも、相当安い印象がありました。ついでに現地のホテルを7泊、あと交通手段としてレンタカーを6日分手配しておきました。これで人生初の海外旅行となる、「ロサンゼルス一人旅」の手配が完了しました。



 当時、三鷹のアパートで一人暮らしをしていたのですが、夏休みに入ってからはそこからほとんど外に出ることもなく、一人で部屋にこもって英語の勉強をしていました。勉強していたのは「こんなときどう言う?英会話110番」というカセットテープ付きの本で、ステレオコンポでカセットテープを流しながら、本に書いてある表現を覚えていきました。これを一カ月間ほぼ毎日続けて、全ページのセンテンスや内容をほぼ全て暗記することができました。もちろんこの本についてだけなら完璧に近い学習だったと言えますが、英語全体からみると海岸の砂一粒にも満たない程のごくわずかな量を理解したに過ぎません。しかし、当時の私は「もう英語は大丈夫だ」と、不思議な達成感を持っていました。


 そして旅行当日になりました。新宿駅から成田エクスプレスに乗り成田空港に向かいます。そして大韓航空機のチェックインカウンターに着いたところ、ダブルブッキングがあったようで、「今日はビジネスクラスになりますよ」ということを言われました。人生初渡航の飛行機がビジネスクラス。快適な空の旅を満喫しました。


 ひと眠りして目が覚めて朝食を食べた後、窓の外を見るとアメリカ大陸が見えてきました。そして、地上がどんどんと近くなります。車が道路の右側を走っているのを見て、「これがアメリカか。ついに来たんだ」と感慨深く思いました。


 飛行機が無事着陸し、入国関係のカードはガイドブックの通り記入して、入国審査も税関も一言も問われること無く通過。それから空港のロビーに着きました。でも時間はまだ午前8時半。ホテルのチェックインには早すぎます。それまでに何をしようか迷ったのですが、周りを見ると自分以外はみんなアメリカ人で、もちろん日本語は通じません。空港のスピーカーから流れてくる音声は全く理解できず、誰かに声をかけたところで会話できる自信もありませんでした。日本ではあれだけ大丈夫だと思っていたのに、アメリカに着いた途端に自信がどこかに消えてしまいました。しかしもう手遅れです。自分で何とかしないといけません。


 とりあえず、飛行機のリコンファーム(予約再確認)をしようと思い、公衆電話のところにある電話帳で「KOREAN AIR(大韓航空)」を探して、内心ドキドキしつつも電話をしてみました。電話口には男性が出ました。


「えーっ、アイドライクトゥー、リコンファームマイリザベイション(I'd like to reconfirm my reservation」と、日本にいる時にカセットテープで学習した通りのセンテンスを言ってみました。すると男性が「OK. What's your flight number?(フライト番号は何ですか)」と聞いてきました。「相手の言っていることが分かった!」と内心喜びましたが、落ち着いてフライト番号を英語で伝え、自分の名前とスペルも伝えることができました。しかし、突然聞き取れない質問が来ました。何を言っているの全く分からなかったのですが、聞き返すための「Pardon?」とか「Excuse me?」などの表現が全く出てきませんでした。代わりに出たのが「え?」という日本語でした。すると男性は少しなまった日本語で「ホカニダレカイマスカ?」と聞いてきました。「この人日本語を話せるのか」と少し安心して、「いいえ」と答えました。


 以上が生まれて初めての英会話です。生まれてからおおよそ21年と10カ月での初体験。完璧な英会話からは程遠いものの、とりあえずは一つめの試練を何とか乗り越えたような気分になりました。それにしてもものすごい緊張感で、電話が終わった後に冷や汗のようなものが出てきてしまいました。


 その後空港内のファーストフード店でピザとチョコレートドリンクを購入し、しばらくしてからタクシーに乗ってホテルに向かいました。いずれの場面でも極短い英語を使ってなんとかその場をしのぐことができました。ホテルのチェックインも無事完了。しかし部屋に入ってからは時差もあるせいがどっと疲れが出て、ベッドに少し横になったらそのまま眠ってしまいました。


 ここまでで分かったのが、「今の英語力では、現地の人とまともな会話なんか絶対できないし、自由に行動することもできない」ということでした。テレビを付けても何を言っているのか全くわかりません。フロントに電話をしようにも、暗記したことと違うことをしゃべられたらどうしようと思い、質問したいことがあってもとても電話をする気にはなれませんでした。


 次の日の朝はホテルのレストランで食事をすることにしました。ウェイターからメニューが渡されましたが、ほとんど読めません。受験英語ではレストランのメニューの出題などありませんし、直前に一カ月間勉強した程度では、レストランの数あるメニューの一部しか理解できるはずがありません。どうしよう、とオドオドしている間にまたウェイターが注文を取りに来ました。「まだ決まっていない、英語力がなく読むのが難しいので、ちょっと待ってほしい」と正確に伝えたいところだったのですが、英語力がないためにそれをどうやって伝えたらいいのかわからず、また「オドオドしているところを見せてはいけない」と思ったこともあり、適当にメニューを指さして「ディス、プリーズ(This, please.)」と言いました。数分後に出てきたのは、氷の入ったグラスに皮をむいたエビが5本入ったものでした。仕方なくそれを食べ、その後コーヒーを注文してその場をしのぎましたが、やはりここでも自分の英語力のなさを痛感せざるを得ませんでした。


 その後はスーパーのレジでも、マクドナルドの注文でも、レンタカーのカウンターでも、オドオドしながらも一言程度の英会話でその場その場を切り抜けました。「こちらから話しかけても、理解できない言葉で返されたらどうしよう」とか、「変な英語をしゃべって相手の気を悪くさせたくない」とか、「自分が英語を分かっていないということを相手に悟られたくない」とか、とにかくコミュニケーションに関して消極的なことばかりが頭をよぎりました。


 旅行後半はレンタカーでのドライブが中心でした。メキシコの国境の町ティファナまで足を伸ばしたり、グリフィス天文台から綺麗な夜景を見たりもしました。ロサンゼルス中を運転したおかげで、市内のどこに何があるのか、大体把握できるようにもなりました。初の海外旅行のしかも一人旅で、「観光」という面だけを見るとそれなりの達成感はありました。しかし、「英語」については本当に最悪でした。出国前に想像していた「1カ月勉強したので、それなりに喋れるはずだ」という過信と、実際に現地で分かった自分の英語力のなさの、あまりにも大きなギャップからくる悔しさと屈辱感は、それから15年以上経った今でも英語の勉強を続けられる程の、非常に大きな原動力となりました。