英語が本当に苦手な人の英語学習法

製作: 小川 邦久

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2.大学受験での英語学習


 高校二年の冬休みの前に、クラスで成績がトップクラスだった友人から「予備校の冬期講習があるけど、一緒に受けてみない?」と誘われました。ただ、自由であるべき時に自分の時間が取れなくなってしまうことが嫌いな私は、当初冬期講習に行くということだけでもかなり及び腰でした。しかし、直前に担任の教師から間接的ではあるものの「大学は無理」と判断されたことが悔しかったこともあり、あと何らかのきっかけをつかむことを少しだけ期待して冬期講習に行くことを決断しました。



 冬休みになり、冬季講習が始まりました。そこで見たのは、今まで学校で受けていたのとは全く違うスタイルの授業です。テレビ番組などで見ていた限り、予備校は「詰め込みの場」というイメージがあったのですが、実際には正反対で、授業中に講師のユーモアを交えた体験談や、「自分自身のためになる勉強」を教えようとしていることもわかり、かなり衝撃的でした。英語の授業では「英語は英語で考える」という、今となっては当たり前のことではありますが、当時の私としては非常に画期的な思考法を伝授してもらった場でもあります。新鮮な驚きを与えてくれた冬期講習のおかげで、この予備校には大変好感を持ち、「ここなら苦手な英語も克服できそう」という気にもなりました。


 冬休みが終わってからも、三学期の新規学生としてこの予備校に通うことになりました。「大学は無理」と引導を渡してくれた担任を見返す意味もあり、「大学には行った方がいい」という母の助言が頭にこびりついていたこともあってか、生まれて初めて真面目に勉強するようになりました。


 それからは、学校が終わって家に帰ると、すかさず自転車に乗り30分かけて最寄の青梅線昭島駅まで向かいます。それから電車で10分程で立川駅に行き、そこから歩いて10分で予備校に到着します。片道合計50分のルートです。


 高校二年の最後に予備校で模擬試験を受けました。理科と数学が得意なことと、国語と社会が苦手だったこともあり、理系科目のみ試験を受けました。もちろん英語だけは文系、理系の区別がなく、どちらにしても大学の受験科目に入ります。その時の結果は英語が偏差値30台後半、数学は40台中盤、そして高校二年で必修だった化学だけは偏差値70を超えていました。化学については学校内では常にトップクラスだったものの、高校自体のレベルの低さもあり、「全国レベルではきっと大したことがないだろう」と思っていたのですが、良い意味で期待を裏切る結果でした。しかし、どちらにしても英語の偏差値の低さは、大学受験の上では致命的です。さらには数学も受験に十分なレベルとは言えません。しかも、高校三年の模擬試験からは浪人生も入ってくるので、さらに偏差値が下がることは目に見えています。


 高校三年になってからの学校以外の勉強時間は、予備校の授業も合わせて一日平均5時間程度で、勉強時間の実に9割以上を英語に費やしていました。得意科目の化学については高校二年の段階で自分なりに教科書全部の学習を終えていたこともあって、浪人生が混じっても偏差値60台後半をキープし、数学についても勉強量とほぼ比例して得点と偏差値が上がって行きました。しかし、英語については、なかなか偏差値が上がって行きません。予備校の授業の予習や復習も、自分でわかる範囲での英文の翻訳程度ではあるものの、それなりにやってはいました。でも、基本的に自分にはまだ授業のレベルが高すぎたようで、ちゃんと頭に入ってくる量が多くなかったようです。それでも何とか夏休み前には偏差値40台中盤までは行くようになりました。


 それから自分の単語力のなさに気付き、当時売れていた「試験に出る英単語(通称:出る単)」という本を買って、この中にある単語を重点的に暗記するようにしました。単語と日本語訳をノートに書き写し、ページを折ってめくりながら単語を暗記する勉強方法を、約1カ月間続けていました。しかし、8月の模擬試験では英語の偏差値がまた30台後半まで落ちてしまいました。今までは偏差値40台なりに、英文の一部でも読めたところはあったのですが、8月の模擬試験ではその「読める感覚」が消えてしまったことも実感しました。英語と日本語の単語レベルの翻訳ばかりに気を取られてしまい、文章全体の意味を捉えることが全くできなくなってしまったようです。そして、ここまではっきりとした数字で結果が現れると、もう「英単語を暗記する学習方法は、自分には合わない」として、スッパリとやめることにしました。単語集を使う形の英語学習は、この時を最後に今まで一度もやっていません。


 ただ、「自分には英語の基礎が抜けている」ということだけは、はっきりと認識していました。そのため、中学一年から高校三年までの教科書を全て引っ張りだし、全てをゼロベースからやり直すことにしました。教科書の全英文を日本語に翻訳してノートに書き写し、それから文章全体の意味を頭に入れつつまた教科書に目を通し、できるだけ英文を英文のまま読むように心がけました。それと、英文法の本「山口英文法講義の実況中継」も購入して学習するようになりました。読解と英文法の学習を同時進行で行うことで、文法の知識が増えるに従って読解がより正確なものになり、逆に読解を進めることで文法の知識が感覚として体の中にしみ込んでくるような感じにもなってきました。良い相乗効果と言えます。あと、あまり効率的とは言えないかも知れませんが、単語や熟語も読解を通して少しずつ覚えていきました。この勉強の成果が出て、10月までには模擬試験の英語の得点が、中学一年一学期の中間試験以来初めて平均点を超えるようになりました。偏差値は50台中盤まで上がり、中堅程度の大学を狙う「理系志望」の英語力としてはそこそこの域まで達することができました。また、レベルの低い高校ではありますが、定期試験の必修科目の英語で学年1位にもなりました。高校二年まで「赤点の常連」だったために受講さえもできなかった「進学レベルの英語」の人たちを超えることもできたのです。


 それからは英語の勉強が楽しく感じるようになりました。今まで自分が知りえなかった世界を知ることができるようになったというような、新しいものを得た喜びが英語の文章を読んでいるだけで沸々と湧いてきます。自分に酔っていた、とも言えるのかも知れません。その後、比較的難しい長文集を数冊買うなどして勉強を続け、長文読解については英語の中でも比較的得意な方になりました。また、文法の勉強もずっと続けていたこともあり、「単語並び替え」なども得意な問題形式の一つでした。だんだんと長文の文脈を読む能力なども備わってきたこともあり、文章の中でいくつか知らない単語があっても、大体の意味を読み取ることができるようにもなりました。


 逆に単独で単語や熟語の意味を問う問題や、発音やイントネーションなどの問題についてはほとんど回答することができませんでした。発音も当時はカタカナ読みで、例えば「Location」を「ロカティオン」などとして覚えていました。スペリングも同時に覚えやすいという利点もあったのと、志望校にはスピーキングやリスニングの試験がなかったこともあり、受験勉強終了までこの方式を取っていました。受験勉強には効果があったこの方式ですが、数年後に英語の学習を再開した際には、英文を黙読した場合にカタカナ読みの発音が頭をよぎって、直後に英語を喋ると自分の発音まで変になったりするという、「大きな障害」となって取り除くのに大変な苦労をしました(解消方法については後述します)。


 受験本番では理系の私立大学を計4校受験し、そのうちの中堅大学1校に無事合格しました。なお、私の高校は当時開校14年目で、その大学に現役で合格した人は開校以来一人もいなかったこともあり、ちょっとした騒ぎにもなりました。また、学年500人のうち、一般受験で四年制大学に合格した人は2名のみ。そのうちの1名ということで、しかも私の学業成績は「優秀」からは程遠かったこともあり、騒ぎに拍車をかけることにもなりました。一度は私に引導を渡した担任の教師も、まさかの大学合格に素直に喜んでくれました。