ナンセンスな物語(2)-ワイルドガンマン

 東京のど真ん中のとあるバーに、小汚いカウボーイ風の帽子を被った男が入ってきた。顔の下半分が短く濃密な髭で覆われている。間違いない。彼はワイルドガンマンだ。

 ワイルドガンマンは店の奥にあるカウンターの一番右の席に座り、紅茶を注文した。店主が急いで紅茶を入れていると、ワイルドガンマンは突然後ろを振り向き、「動くな」と叫んだ。店内には10名ほどの客がいたが、全員背筋が凍りついた。室温がマイナス10度だったのだ。

 ワイルドガンマンは紅茶をすすりながら、店主の顔を見上げる。ワイルドガンマンは座高が低いのだ。椅子に座ると何でも見上げるしかない寂しい男だ。

 やがてワイルドガンマンは紅茶を飲み終えて、財布からしわ一つ無い千円札を一枚出し、店主から受け取ったおつりを片手に、東京の人ごみの中へと消えていった。

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