ナンセンスな物語(13)-冷蔵庫

 昨日買ったばかりの冷蔵庫の扉を開けたら、一面草原の世界が広がっていた。草原には菜の花や西洋タンポポも咲いていて、遠方にはいくつもの岩山がそびえ立っている。まるでヨーロッパアルプスのようだ。

 私はたまらず冷蔵庫の扉をくぐり、少年のように草原を走り回った後、大の字になって寝そべってみた。太陽がさんさんと輝いていて、柔らかそうな雲が群れをなしてゆっくりと東の方に動いている。これが冷蔵庫の中なんて信じられない。

 ふと山の方を見てみた。すると昨日コンビニで購入した牛乳が、山小屋の郵便受けの上にポツンと1つ置いてあった。そう言えば、この冷蔵庫はヤマダ電機でサイズが一番大きかったな。カタログには大きい冷蔵庫ほど省電力化が進んでいると書いてあったが、これだけ中が大きいと物を取るのがちょっと大変だな、と少しだけ後悔した。

 今日の午後から3日間留守にしてしまうので、牛乳を飲みに山小屋までとことこと歩いていった。こんな牧歌的な風景は他の冷蔵庫には無いだろう、とちょっとだけ誇らしげに思った。

| 前へ | | 次へ |

| ナンセンスな物語集ホームへ |


Copyright (C) 2008 KUNISAN.JP. All Rights Reserved.