ナンセンスな物語(10)-無人島

 水平線の向こうから夕日が顔を出した。さわやかな悪臭が、猛烈なそよ風とともにやってくる。ここは百万もの人が住む人類未開の近代的な無人島だ。

 混雑した街には人ごみなんていうものは無縁だ。平日だろうと土日だろうとそんなことは関係ない。関係あるのは我々住民なのだから、そんなことは放っておいてほしい。島の住民はそのことに大変憤慨している。

 今日は通勤に下駄をはいている普通のサラリーマンが、皆で巨大な「みこし」を担ぐという伝統的な儀式がひそやかに行われる。この島では長寿の祝いとして、弱肉強食を具現化したようなこのフェスティバルが、ほぼ毎週のように開催される。

 砂浜ではすました顔して怒っているあどけない老女たちが、今日もせっせとワカメを乾燥させている。彼女たちにとっては、この作業も美の追求の一環にすぎない。

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