タングステン板・棒・ワイヤーの特徴

タングステンの板(シート)・棒(ロッド)・ワイヤーの特徴について説明します

※本ページは自己学習のために作成されたもので、内容の正確性や完全性は保証しません。


タングステンの基本特性
元素記号 原子番号 融点[℃] 密度[g/cm3] 熱膨張係数[1/k] 抵抗率[Ωcm]
アルミニウム Al 13 660 2.7 2.37x10-5 2.655x10-6
ケイ素 Si 14 1410 2.33 4.15x10-6 2.3x10-5
チタン Ti 22 1660 4.54 8.4x10-6 4.2x10-5
Fe 26 1535 7.87 1.38x10-5 9.71x10-6
モリブデン Mo 42 2620 10.2 5.3x10-6 5.2x10-6
Cu 29 1083 8.96 1.62x10-5 1.67x10-6
Ag 47 962 10.5 1.93x10-5 1.59x10-6
タングステン W 74 3410 19.35 4.5x10-6 5.65x10-6
Au 79 1064 19.32 1.42x10-5 2.35x10-6

重要! タングステンは全金属中で一番融点が高く、密度が金と同様に高く、熱膨張係数がケイ素(シリコン)に近く、電気を通す。

タングステンの基本特性
原料パウダー(酸化タングステン)
→水素炉で還元
→プレス
→焼結
→塑性(そせい)加工
※塑性加工は、板の場合には圧延、棒の場合には鍛造。
※ワイヤーは棒材を線引きして製造する。
※焼鈍処理は主に板に施される。高温使用時の変形を抑え、硬度を低くして加工性を良くする。

なぜ粉末冶金で製造?
・融点が高いため、鉄鋼用の炉のような溶解炉を作るのが不可能。例えば、鉄鋼用の炉の場合には、内側に鉄より融点の高い耐火レンガを貼るなどして対応できるが、タングステンの融点は耐火レンガよりも高く、このような炉を製造するのも不可能。タングステンは全金属中で一番融点が高い。
・融解して製造したものは、強度的に脆くて実用に向かない。
タングステンの結晶イメージ

タングステンの主な特性(1)-引っ張り強度
一般に「強度」というと、引っ張り強度のことを指す。材料の両端を引っ張って、破断した時の荷重から計算される。
引っ張り強度は[N/mm2]で表される。例えば引っ張り強度980[N/mm2]の場合には、980[N/mm2] ÷9.8(重力加速度)=100kgf/mm2という計算で、断面1mm2あたり、100kgの荷重に耐えられる。
タングステンの場合には加工率が高くなると引っ張り強度も高くなる。つまり、板の場合には薄い方が強度が高く、棒やワイヤーは径が細い方が引っ張り強度が高くなる。 また、温度が上昇すると引っ張り強度は低下する。特にタングステンの再結晶温度(結晶が粗大化する温度)である1200℃付近では、強度低下が顕著になる。タングステンにカリウムをドーピングしたタングステン合金は、再結晶温度が1800℃付近まで上げられるため、純タングステンよりも高温域での強度が高い。

タングステンの主な特性(2)-伸び
前述の引っ張り強度試験で、元々の試験片の長さと、破断した時点での長さを比較して、「%」で示したものが「伸び」である。「破断伸び」とも呼ばれる。例えば、元々100mmの試験片が、破断直前に120mmまで伸びた時には、伸び20%となる。
タングステンの場合、加工率が高くなればなるほど伸びは小さくなる。つまり、板の場合には薄いほど、棒やワイヤーの場合には細いほど伸びは小さくなる。ただし、焼鈍である程度伸びは回復する他、高温下では伸びやすい性質を持つ。
タングステンワイヤーを細線化する場合などで、「伸び」は重要な要素となる。

タングステンの主な特性(3)-クリープ強度
例えばタングステン板の上に物を置いて、10時間、100時間、1000時間などの時間内に、どれだけタングステン板が変形したかを見る。このような変形を「クリープ変形」と言い、クリープ変形の量が小さいほど「クリープ強度」が強いと言える。引っ張り強度は荷重を強めながら破断強度を測定するのに対し、クリープ強度は荷重は一定のまま、時間に対する変形量を測定する。特に工業炉のヒーター、リフレクターや焼結用トレーなどでは重要なファクターとなる。
高温になればなるほど短時間でクリープ変形が起こり、また単位時間内(例えば同じ100時間で測定した場合)のクリープ変形量も大きい。
材料に物を置かない場合でも、材料自体の重量によって徐々に変形を起こすことがあるが、これもクリープ強度によって変形の度合いが表される。
タングステンに酸化ランタンをドーピングしたタングステン合金は、2000℃付近までクリープ強度が高い状態を保てる。
クリープ強度のイメージ

タングステンの主な特性(4)-硬度
硬度は材料の加工性に大きく影響する。
タングステンの硬度は、通常「ビッカース硬度」と呼ばれる値が採用される。硬度計に資料を置き、先端にダイヤモンド(この世で一番硬度が高い)の付いたものに荷重をかけて、資料に四角錐状(ピラミッド状)の傷を付ける。この傷が大きいほど硬度が低く(柔らかい)、傷が小さいほど硬度が高い(硬い)と言える。
ビッカース硬度はHV30=360〜600という書き方がされるが、これは荷重30kgで測定した場合の硬度という意味。ちなみに硬度の低いモリブデンはHV10(荷重10kg)、さらに硬度の低いアルミニウムはHV5(荷重5kg)などで測定される。

タングステンの主な特性(5)-再結晶温度
タングステンは粉末原料を焼結し、さらに圧延や鍛造などの工程を経て、結晶が層状(板)またはファイバー状(棒、ワイヤー)に微細化されて強度が高くなり、さらに曲げ加工などの加工性も良くなる。
しかし、温度が1200℃付近を越えると「再結晶」という結晶の粗大化が起こる。一旦再結晶してしまうと、タングステンは非常にもろくなり、例えばタングステンの薄板などは、手でも簡単に割れてしまうほど。
一旦再結晶してしまうと、元の結晶状態に戻すことは不可能なため、強度が必要な場面では再結晶温度付近まで上げない事が重要である。
なお、前述した通り、タングステンにカリウムをドーピングしたタングステン合金など、タングステンに添加剤をドーピングすることで、再結晶温度を上げることができる。
再結晶のイメージ

タングステンの主な特性(6)-転位と内部応力と焼鈍処理
タングステンの圧延工程(板)や鍛造工程(棒)などでは、結晶が伸ばされるのと同時に、「転位」と呼ばれる原子の並びの欠陥が生じる。この転位があると、材料が固くなり、曲げ加工で割れやすくなるなどの不都合が生じる可能性がある。
また、圧延、鍛造や機械加工、表面研磨などで、「内部応力」と呼ばれる残留応力が発生する。内部応力が残った状態で温度を上げると、内部応力の開放と同時に材料の変形(反り等)が起きてしまう。
これらの問題を解消するため、特にタングステン板では、圧延後に「焼鈍」と呼ばれる熱処理を行う。焼鈍により転位は回復されて、また材料に重りを乗せた「プレス焼鈍」をすることで、平らな状態で内部応力が開放される。これにより曲げ加工などが行いやすくなる上、高温での使用でも材料の変形(反り)が起こらない(ただし、熱分布の影響とヒートサイクルによる変形は起こりうる)。
焼鈍のイメージ

タングステンの主な特性(7)-酸化
タングステンは空気中・室温では、表面がくすむ程度の酸化をするが、この程度の酸化であれば、お湯をかけて布で拭きとる程度で除去できる。ただし、梅雨の湿気の多い時期や、真夏の気温の高い時期などは、表面が黒ずんだりするなど、酸化が進むことがある。そのため、タングステンの板、棒、ワイヤーなどの保管は、高温・多湿を避ける必要がある。
また、表面が酸処理されたタングステン製品(表面が粗い)は、酸素分子に触れる表面積が大きくなることから、表面がスムーズなものよりも酸化の進行がしやすい。
タングステンは高温下で酸素や水蒸気などと反応しやすいことから、真空、水素、希ガス(アルゴンなど)の雰囲気で使用される。

タングステン板・棒・ワイヤーの主な用途
【タングステン板】
工業炉(真空炉、水素炉など)、焼結トレー(セラミックス、磁石、原子力燃料用ペレットなどの焼結用)、半導体ベースプレート、真空蒸着ボート、スパッタリングターゲット、ヒートシンク
【タングステン棒】
ショートアークランプ用電極、工業炉用部品(リベット、ネジ、ボルトなど)、TIG溶接電極
【タングステンワイヤー】
フィラメント、マグネトロン部品(電子レンジ部品)、放電灯用電極、真空蒸着フィラメント

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